星の数ほど

星の数ほど

語彙力がないオタクの備忘録

羊と鋼の森

 

 

 

 

 

 

 

いい話だった。

 

 

 

 

 

 

 

音楽も、その周りの環境も、言葉や文章で表現するのはとても難しいと思う。誰にでも伝わるように魅力的で分かりやすく、となればなおのこと。

それでもこの小説は、全ての景色が柔らかく暖かく浮かんできた。

 

 

 

 

 

 

 

柳さんは人のことをよく見てる。外村くんを可愛がっているなと思う。彼を不思議な子だと思いながら、誠実に向き合っていると感じた。車に指輪を忘れちゃうおっちょこちょいさもあるのが可愛い笑。まさかのバンドマン、びっくりしたけど、かっこよかった。一番そばで、優しく気さくに、見守ってくれた人。理想の先輩像だなと思った。

 

 

板鳥さんは、外村くんにとって神様に近いのかなと思った(でも外村くんは多分、神とか信じないタイプだし、いるとかいないとか考えたことすらないと思う)。あまり出てこないけど、そのぶん、話した時の言葉の重みが段違いだ。遠くから彼を導く言葉をくれる、天啓を授ける、そんなイメージだった。優しく手を差し伸べて連れて行ってくれるのが柳さんだとしたら、板鳥さんは一番うえにいて、穏やかに待っていてくれる人だと思う。秋野さんは後ろから、ふらふら付いてくるんじゃないかな。登校班の副班長みたいな感じで笑。

 

 

秋野さん、ほんの少しの言葉から、今までの苦労とか挫折が滲み出てくる。ちょっと嫌な人っぽいけど、色々経験してきたのが垣間見える。でも本人はそれを出したくない。分かる。大人だもんね。多分、将来もある未熟で素直な若者を目の前にして、それが羨ましいと思ってる部分もあるのかなと思った。

ピアニストを目指していた。板鳥さんに調律してもらった。その言葉だけで二人の関係性や、彼が板鳥さんをどう思っているかがひしひしと伝わるようだった。

それぞれの調律の様子やスタンス、それが性格や人生まるごと表れているようで面白い。秋野さんの素早い調律が一番好きなのかもしれない。口ではあぁ言ってるけど、ピアノを愛してやまない人。ドンシャリ

 

 

 

先輩は先輩、経験と知識がものをいう。ただ、それだけじゃない。先輩だって成長の過程にある。完璧な人間はこの物語に一人としていなかった。みんな悩んで、立ち止まって考えたり、とりあえずやってみたり、黙々とこなしている。その中で何かに気づいたり、ずっと疑問に思っていたことを解決したりしなかったりする。時には新人と肩を並べて同じほうを向いてみて、景色を共有する。足並みを揃えているわけではないけど、それぞれの速度で、歩き方で、旅をするように森をゆく。

 

 

 

 

外村くんは真っ直ぐで純粋で、垢抜けてないようにも感じるけど、その濁りのなさが彼の持つ”素晴らしさ”につながっていると思う。森や山の中で育ってきたのがよく分かる、純朴な感じというのだろうか。擦れていなくて、邪な気持ちも持っていない。でも積極性があり、チャレンジ精神もある。それがあまり表立っていないだけ。柳さんの言っていた「無欲だけど強欲」というの、ほんとに的を得ているなと思った。映画キャストということで山崎賢人をあてながら読んでいた。彼の純粋すぎる、綺麗な瞳がただひたすら羊と鋼の森を見据えている、その姿がずっと浮かんで離れなかった。

成長物語、一言で言ってしまえばそうなんだと思う。でもそこらへんにあるような、あからさまな、フィクション色の強い【成長物語】ではなくて、きっと等身大の話だった。上手くいかないもどかしさ、知識や経験がないことへの焦りもある。目を瞑って、手を伸ばして見据える、自分の探し求めている音はどこにあるのか。正解なんてないけど、それでも答えを出さないといけない。嫌だと思うことがあっても、逃げようとせずに向き合う。背伸びをしすぎることもなく、かといって妥協もせず、きちんと、こつこつと。大地に根を張り、幹で支え、枝葉が伸びていくように、外村くんは成長していく。それはまだまだ続いていく。

 

 

 

 

 

 

風景が美しかった。空気が綺麗だった。

人間関係のいざこざや、余計なものがないからこそ、純度の高い、透明度の高い話になっていたのだと思う。

もがくというには穏やかで、ただ進むというには必死だった。血の通った人間らしさ、目標に向かって惑いながら迷いながらひたむきに進む泥臭さもあった。

ふたごと少しずつ対話を重ねながら、関係を築いていく姿は見ていて微笑ましかった。(見ていないのに見ているように感じる、いつもは感じている薄膜の一つすら取り払われる、すごいことだと思う。)

途中で少しだけ出てきた男の子、気になる。寡黙な彼はその後も楽しくピアノを弾いているのだろうか、共生しているのだろうか。ぜひ穏やかに弾いていてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

静かに紡がれた、熱い物語だった。圧倒的な静の中に、確かな動があった。

多くを語らない、想像させる余白と余韻が美しい小説だった。

 

 

 

 

2018/10/09~10/11